大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(ネ)1723号 判決 1996年12月26日

控訴人 東日本編レース協同組合

右代表者代表理事 小堀文男

右訴訟代理人弁護士 村松道弘

被控訴人 勧角証券株式会社

右代表者代表取締役 加藤陽一郎

右訴訟代理人弁護士 尾崎昭夫

同 川上泰三

同 井口敬明

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の予備的請求を棄却する。

三  当審において生じた訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた判断

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金四九五万二五九一円及びこれに対する平成六年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との裁判を求め、被控訴人は、主文第一項及び第二項と同旨の裁判を求めた。

第二事案の概要及び当事者双方の主張

一  事案の概要

1  本件は、控訴人が平成元年七月三日に口座を開設して開始した被控訴人との間の証券取引につき、主位的には、被控訴人の資金運用委託契約上の債務不履行に基づき、予備的には、被控訴人の営業担当者の不法行為につき使用者責任等に基づき、被控訴人に対し、控訴人が被った損害の賠償等を請求した事案である。

2  当事者間に争いのない事実

控訴人は、昭和六二年一〇月一四日、編レース織機の共同廃棄事業を適切に実施するために設立された協同組合であり、被控訴人との間で、平成元年七月三日に口座を開設して証券取引を開始したものである。

控訴人は、平成二年二月七日、被控訴人桐生支店に委託して、長谷工コーポレーションのワラント一九単位、単価二五・八円を四九五万二五九一円で買い入れ(以下「本件ワラント」という)、その後、権利行使最終日である平成五年一二月一六日を経過して、価値が零になったものである。

二  当事者双方の主張

1  控訴人の主張

(主位的請求)

(一) 控訴人は、被控訴人との間で、平成元年七月三日までに、次のとおりの合意が成立し(以下「本件合意」という)、本件合意に基づき、被控訴人が控訴人の口座で証券取引を運用することを被控訴人に一任し、資金を預託した。

(1) 元本確実な中期国債ファンド及び転換社債併用で運用すること。

(2) 利息年六・五パーセント相当の利益を保証すること。

(二) 被控訴人は、本件合意に反し、本件ワラントを購入し、控訴人が預託した資金二〇〇〇万円に対する年六・五パーセントの利息に相当する利益を確保する運用をしなかった。被控訴人は、控訴人に対し、本件合意違反の債務不履行に基づき損害賠償責任を負うものであり、その損害は、本件ワラントの買入金額相当の四九五万二五九一円である。

(三) よって、控訴人は、被控訴人に対し、債務不履行に基づき、損害賠償金四九五万二五九一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年四月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

(予備的請求)

(四) ワラントは、普通の株式と異なり、その権利行使価格が株式の時価を下回り、権利行使期間内にその時価を上回る見込みがないと、紙屑同然になり、無価値になるから、その取引はリスクが大きく、証券会社の営業担当者が顧客にワラント取引を勧めるに当たっては、そのリスクの大きさを十分に説明し、十分に理解させた上で取引を行うべき義務がある。

被控訴人は、控訴人が本件ワラント買付けの委託をしていないし、ワラント取引のリスク等につき説明をしていないにもかかわらず、本件ワラントを買い付け、その買入金額相当の四九五万二五九一円の損害を控訴人に与えた。

(五)(1) 控訴人は、被控訴人に対し本件ワラントの買付けの委託をしていないから、被控訴人は、控訴人に対し、本件ワラントの買入金額に相当する預託金の返還義務を負うものである。

(2) 被控訴人は、控訴人に対し、本件合意に基づき本件ワラントを買い付けるに際して、リスクの大きいワラントに関する説明義務を履行しなかったものであり、右不履行により、控訴人は、本件ワラントの買入金額相当の四九五万二五九一円の損害を受けたものである。

(3) 被控訴人桐生支店の次長藤巻清は、控訴人に対し、リスクの大きいワラントに関する説明義務を履行しなかったものであり、右説明義務違反により、控訴人は、本件ワラントの買入金額相当の四九五万二五九一円の損害を受けたものであるところ、藤巻清は、被控訴人の被用者であるから、被控訴人は、控訴人に対し使用者責任に基づき損害賠償責任を負うものである。

(六) よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件ワラントの買入金額に相当する預託金の返還、又は不法行為、使用者責任に基づき、損害賠償金四九五万二五九一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年四月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

2  被控訴人の主張

(主位的請求)

(一) 仮に本件合意が成立しており、本件合意違反の無断買付けが行われたとすれば、無断売買に当たるから、右買付けの効果は、控訴人に帰属していないから、控訴人に損害が生じていないことになる。

(二) 本件合意は、公序良俗に反して無効である。

現行の証券取引法五〇条の三第一項三号(平成三年法律第九六号により改正された後のものであり、平成四年一月一日から施行された)は、証券会社が顧客に対し損失補填等のために財産上の利益を提供することを禁じているが、その趣旨に照らすと、本件合意は、その効力にかかわらず、本件合意に基づきその損失の補填を求めること自体が認められないものである。

(三) 被控訴人の営業担当者等には、本件合意を締結する権限を有しないから、本件合意は被控訴人に効力が及ばないものである。

(四) 控訴人の主張に係る本件合意は、次の事情からみて、成立していないし、存在しないものである。

(1) 控訴人は、本件合意の成立時期を特定することができないし、控訴人代表者の供述によっても本件合意が成立した頃の状況を明確にすることができないものである。

(2) 被控訴人は、当時、顧客でもなく、取引関係もない控訴人に対して利回り保証をしてまで取引を開始するメリットはなかった。

(3) 控訴人との取引においては、当初から中期国債ファンド及び転換社債以外の証券取引があり、控訴人の担当者である寒河江参事は、殆ど毎月取引明細及び残高の内容を確認した「回答書」(月次報告書)を被控訴人に返送したほか、控訴人の理事会に報告するため取引毎に取引の内容を記帳していたにもかかわらず、本件訴訟を提起するまで、控訴人が被控訴人に対し照会し、あるいは苦情を申し立てたことはない。

(4) 平成七年当時、転換社債市場は低調であり、中期国債ファンドとの併用による証券取引によって年六・五パーセントの利回りを確保することは、客観的に不可能な状況であった。

(予備的請求)

(五) 控訴人の主張(四)は、争う。

(六) 本件ワラントは、控訴人が平成二年二月二日に自己の責任と判断において買い付けたものであり、被控訴人が無断で買い付けたことはない。

本件ワラントは、平成五年一二月一七日に権利行使期間を経過して無価値になり、控訴人がその損失を受けたことは認める。

(七) 控訴人の主張(五)、(六)は、争う。

控訴人の主張するワラント取引における説明義務は、その根拠、基準が明らかではない。

本来、ワラントを含む証券取引においては、自らの意志に従って行った結果は自ら責任を負うべき自己責任の原則が妥当するものである。特にワラント取引は、変額保険の取引が一回取引であるのとは異なり、継続的な証券取引の中で行われるものであるから、証券会社が虚偽の情報を提供する等して、顧客の判断が大きく誤導されたような場合には、自己責任の原則が妥当せず、説明義務違反が認められることがあるとしても、一般的に証券会社が説明義務を負うとすることは、本来顧客が負担すべき結果を証券会社に転嫁することになり、到底認められない。

控訴人は、被控訴人との証券取引を、寒河江参事等の事務担当者に一任しており、被控訴人桐生支店の担当者は、寒河江参事に対し、ワラント内容、価格、長谷工コーポレーションの業績等を説明し、その依頼を受けて、本件ワラントを買い付けたものであり、説明義務違反はない。

第三証拠関係<省略>

第四当裁判所の判断

一  主位的請求について

<証拠>、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  控訴人は、昭和六二年六月一六日に設立総会を開き、同年一〇月一四日に設立登記を経た法人であり、東日本編レース工業組合(以下「工業組合」という)の組合員を構成員として設立されたものであり、組合員の取り扱う編レース生地の共同販売、原料の共同購買、編レース織機の廃棄等を事業とするものである。控訴人の代表者である代表理事は、平成元年以降、小堀文男である。

小堀は、二〇年以上にわたり、自己の名義、家族の名義、経営する会社の名義を利用して、被控訴人桐生支店(以下「桐生支店」という)との間で証券取引を行ってきたものであり、桐生支店では大口の顧客であり、桐生支店の次長が小堀の担当をしていた。

小堀は、昭和六二年六月頃、工業組合の副理事長をしていたが、当時、桐生支店の次長であった小寺松実に対して、工業組合の資金を信託銀行に預金しているが、その利率が低下しているため、他の商品に変えたいので、工業組合の理事会において中期国債ファンド、転換社債の説明をしてほしい旨の依頼をし、小寺は、これを承諾した。小寺は、昭和六二年六月一六日に開催された工業組合の理事会において、工業組合の理事らに対して、中期国債ファンド、転換社債の内容、予想利回り、証券市場の状況等を約一五分にわたり説明し、「各種投資利回り表」と題する書面を配付した。その際、小堀は、工業組合の理事らに対し、年六・五パーセント、七パーセントの利回りの話をしていたが、小寺がこれを保証するような話をしたことはなかった。

2  工業組合においては、小堀の説明等によって、桐生支店に証券取引の口座を開設し、証券取引を行うこととし、早速、昭和六二年六月一七日、桐生支店に口座(以下「第一口座」という)を開設し、同日から中期国債ファンドを買い付けたが、その後、中期国債ファンド、転換社債のほか、株式の取引を行い、その回数は多数回にのぼった。

工業組合の証券取引の担当者は、小堀と事務を担当していた小池参事であり、当初は、小寺が小堀に特定の証券を勧め、小堀の承諾を得て買い付ける等の証券取引を行い、現金の支払等の事務処理を小池参事が行っていた。その後、暫くして、小寺は、小堀から、証券取引については小池参事に一任しているから、小池参事と連絡して行ってほしい旨の指示を受けたため、それ以後は、小池参事に特定の証券につき銘柄、価格等説明して勧め、小池参事の承諾を得て買い付ける等の証券取引を行い、その取引の結果につき買い付けた銘柄、価格、買い付けた証券数等をその都度小池参事に連絡していた。

ところで、その後、工業組合において、右の証券取引を行っていた資金とは別枠の資金が生じたため、これを第一口座とは別に工業組合の口座を開設することとなり、小堀は、小寺にその口座の開設を依頼し、昭和六二年八月一一日、工業組合は、桐生支店にさらに証券取引の口座(以下「第二口座」という)を開設した。第二口座を利用した証券取引についても、第一口座と同様に行われ、小寺が小堀、小池参事への説明、承諾、報告を経て行われ、その対象になった証券も、中期国債ファンド、転換社債のほか、株式もあり、取引回数も多数回にのぼった。

工業組合においては、証券取引を担当していた小池参事が取引の都度、取引の内容を工業組合の帳簿に記入し、小堀に報告するとともに、工業組合の理事会にも報告していた。小寺は、工業組合の取引につき、毎月、月次報告書を工業組合に送付し、工業組合においては、小池参事がその取引の内容を確認した上、取引の明細、残高に相違がない旨の工業組合の理事長印を押して、被控訴人に回答していた。また、工業組合が桐生支店を介して買い付けた証券は、桐生支店が保管する旨の合意に基づき桐生支店が保管し、保管に係る証券については、被控訴人が預り証を工業組合に送付していたし、毎年、三月と九月には被控訴人が残高照会をしていたが、工業組合からこれらの照会等につき異議を述べたことはなかった。

小寺は、小堀が桐生支店の大口の顧客であったことに配慮し、できるだけ儲けの生じる証券を勧めていたが、平成元年二月二一日、小堀にワラントの内容、ワラント取引の仕組みを説明し、昭和アルミドルワラントの購入を勧めたところ、小堀の承諾を得たので、これを工業組合のために買い付けた。

3  平成元年三月六日、桐生支店の次長が小寺から藤巻清に交替し、小堀、工業組合の担当者は、藤巻になったが、工業組合との証券取引の方法は、引き続き小寺と同様な方法で行われた。

しかし、桐生支店に工業組合名義の口座が第一口座、第二口座の二口あったため、平成元年五月頃、被控訴人内部で問題になり、藤巻が小堀にその問題の解消を依頼したところ、工業組合は、工業組合の資金を運用するために、新たに東日本編レース工業会(以下「工業会」という)という任意団体を設立したことにして、工業会名義の証券取引の口座を桐生支店に開設することとし、第一口座を工業会名義の口座に変更した。工業会は、団体としての実態を欠くものであり、工業会の口座は、工業組合の口座を管理していた小堀、小池参事によって管理されていたし、その証券取引も、従来の工業組合の場合と同様に行われた。

工業組合においては、ワラント取引についてみると、前記のように、平成元年二月二一日、工業組合名義で昭和アルミドルワラントを購入したほか、平成元年五月三一日、当初、工業組合において富士フィルムドルワラントを購入したが、これを工業会名義で購入することにし、また、同年一〇月一九日、工業会名義で全日空ドルワラントを購入し、平成二年二月一五日、工業会名義で小森印刷ワラントを購入し、同年二月二八日、工業会名義で新日鉄化学ワラントを購入した。工業組合は、これらのワラント取引により利益をあげることができたし、その取引の方法は、前記のように、小寺、藤巻の説明、小池参事らの承諾、取引後の報告、月次報告書による確認等を経ていた。

4  控訴人においては、その設立登記後、証券取引を行っていなかったが、藤巻が小堀から証券取引の口座開設の依頼を受け、平成元年七月三日、口座を開設した。控訴人の代表者は、当時、工業組合と同様に、小堀であったが、藤巻は、小堀から控訴人の取引については、控訴人の寒河江参事に一任しているので、寒河江参事と連絡をして証券取引を行ってほしい旨の指示があったので、寒河江参事と連絡をしながら証券取引を行っていた。

控訴人と、工業組合は、その構成員がほぼ共通するものであり、その事務所も同じ建物内の同じ部屋を使用しており、小池参事、寒河江参事も隣り合った机で事務をとっていた。

桐生支店と控訴人との間の証券取引については、工業組合との間の取引と同様に行われ、藤巻が寒河江参事に特定の証券につき銘柄、価格等説明して勧め、寒河江参事の承諾を得て買い付ける等の証券取引を行い、その取引の結果につき買い付けた銘柄、価格、買い付けた証券数等をその都度寒河江参事に連絡していた。控訴人においては、証券取引を担当していた寒河江参事が取引の都度、取引の内容を控訴人の帳簿に記入し、小堀に報告するとともに、控訴人の理事会にも報告していた。藤巻は、控訴人の取引につき、毎月、月次報告書を控訴人に送付し、控訴人においては、寒河江参事がその取引の内容を確認した上、取引の明細、残高に相違がない旨の控訴人の理事長印を押して、被控訴人に回答していた。また、控訴人が桐生支店を介して買い付けた証券は、桐生支店が保管する旨の合意に基づき桐生支店が保管し、保管に係る証券については、被控訴人が預り証を控訴人に送付していたし、毎年、三月と九月には被控訴人が残高照会をしていたが、控訴人からこれらの照会等につき異議を述べたことはなかった。

控訴人は、寒河江参事を介して、平成元年七月三日から平成五年一一月五日まで、被控訴人との間で、転換社債、中期国債ファンドのほか、株式の取引を多数回にわたり行った。

また、藤巻は、平成二年二月二日、寒河江参事に対し、電話でワラントの内容、仕組み、長谷工コーポレーションの業績等を説明し、長谷工コーポレーションのワラントの購入を勧めたところ、寒河江参事は、工業組合、工業会の前記の第一口座、第二口座でワラント取引によって利益が出ていることを知っていたこと等もあって、これを承諾したことから、藤巻は、同日、長谷工コーポレーションのワラント一九証券(本件ワラント)を控訴人のために購入した。藤巻は、本件ワラントの購入後、寒河江参事にその旨を連絡したが、寒河江参事は、これを了承した。寒河江参事は、その数日後、藤巻に対して、日本経済新聞のどの部分を読めばワラントの値動きが分かるのか等の質問をしたため、藤巻は、同新聞のコピー、長谷工コーポレーションの株価のチャートブックのコピー、海外ワラントの仕組みを紹介した小冊子を持参して説明した。

控訴人は、本件ワラントの購入後、毎月、本件ワラントの内容が記載された月次報告書を控訴人に送付したが、控訴人においては、寒河江参事がその取引の内容を確認した上、取引の明細、残高に相違がない旨の控訴人の理事長印を押して回答し続けていたし、寒河江参事は、控訴人の帳簿に本件ワラントの内容を記載するとともに、小堀、控訴人の理事会に報告していた。本件ワラントの権利行使の最終日は、平成五年一二月一六日であったが、同日の経過により、本件ワラントは無価値になったものの、控訴人は、同年一二月二一日に回答した月次報告書にも異議を述べなかった。

以上の事実が認められる。原審における証人坂井久夫の証言、当審における証人小池邦八の証言、原審における控訴人代表者尋問の結果中には、右認定に反する部分があり、甲第二〇号証(控訴人代表者作成の陳述書)、第二三号証(坂井久夫作成の陳述書)、第二四ないし第二六号証(いずれも控訴人の理事、監事作成の陳述書)の記載中にも右認定に反する部分があるが、前掲のその余の証拠に照らして、採用することができない。他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、控訴人は、主位的請求の請求原因として、被控訴人との間で、平成元年七月三日までに、元本確実な中期国債ファンド及び転換社債併用で運用し、利息六・五パーセント相当の利益を保証する旨の本件合意が成立したことを主張するが、本件全証拠によっても本件合意の成立を認めるに足りる証拠がないのみならず、右認定の事実によれば、本件合意が成立していないものと認められる。控訴人の右主張は、本件合意の証券取引法上の効力を論ずるまでもなく、その前提を欠くものであって、採用することができない。

以上のとおり、控訴人の主位的請求は、その余の点につき判断するまでもなく、棄却を免れないというべきであり、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当である。

二  予備的請求について

次に、控訴人は、予備的請求の請求原因として、まず、控訴人が本件ワラント買付けの委託をしていないにもかかわらず本件ワラントを買い付けた旨を主張するが、前記認定の事実によれば、控訴人は、控訴人の代表者小堀から被控訴人との間の証券取引を任された寒河江参事を介して、その承認の下に本件ワラントを購入し、その後、理事会に報告して異議なく了承したものであるし、本件ワラントの購入後、長年にわたり本件ワラントの購入につき異議を述べなかったものであることが認められるから、控訴人の右主張は、到底採用することができない。

控訴人は、また、被控訴人が本件ワラントを買い付けるに際して、控訴人に対しリスクの大きいワラントに関する説明義務を履行しなかったものである旨を主張するが、前記認定の事実によれば、被控訴人の桐生支店次長藤巻は、寒河江参事に対して、ワラントの内容、仕組み、長谷工コーポレーションの業績等を説明し、長谷工コーポレーションのワラントの購入を勧めたところ、寒河江参事は、工業組合、工業会の前記の第一口座、第二口座でワラント取引によって利益が出ていることを知っていたこと等もあって、これを承諾したこと、控訴人と密接な関係にある工業組合は、数回にわたり被控訴人とワラント取引を行い、利益を得ていたこと、寒河江参事は、本件ワラントの購入の数日後、藤巻に対して、日本経済新聞のどの部分を読めばワラントの値動きが分かるのか等の質問をしたため、藤巻は、同新聞のコピー、長谷工コーポレーションの株価のチャートブックのコピー、海外ワラントの仕組みを紹介した小冊子を持参して説明したこと、被控訴人は、本件ワラントの購入後、毎月、本件ワラントの内容が記載された月次報告書を控訴人に送付したが、控訴人においては、寒河江参事がその取引の内容を確認した上、取引の明細、残高に相違がない旨の控訴人の理事長印を押して回答し続けていたこと、寒河江参事は、控訴人の帳簿に本件ワラントの内容を記載するとともに、小堀、控訴人の理事会に報告していたが、控訴人から本件ワラントの購入につき異議がなかったこと、控訴人と密接な関係にある工業組合は、被控訴人との間で、工業組合名義、工業会名義で多数回にわたる証券取引を行い、控訴人もまた、被控訴人との間で多数回にわたる証券取引を行っていたことが認められるところであり、右事実によると、控訴人は、本件ワラントの説明を受け、その意味を十分に理解した上で本件ワラントを購入したものと認めるのが相当である。そうすると、控訴人の右主張は、その余の点につき判断するまでもなく、採用することができないことは明らかである。他に、控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、控訴人の予備的請求は、その余の点につき判断するまでもなく、棄却を免れないというべきである。

第五結論

よって、控訴人の本訴請求のうち主位的請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、当審における予備的請求は理由がないからこれを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 佃浩一 升田純)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例